広島高等裁判所 昭和27年(う)396号 判決
第一に原判決は証拠として第一項乃至第五項に亙つてその標目を掲げているが、その第二項に「被告人等の差戻し前の第一審の各公判調書」と記載しているが、このような記載方法は、はたして刑事訴訟法第三百三十五条第一項に所謂「証拠の標目」を示したといい得るであろうか。公判調書には被告人、弁護人又は検察官の各供述、或は又証人、鑑定人の供述、証拠の取調べに関する手続その他審理の経過に関する一切の事項を記載するものであつて、その内容は多岐に亙り、しかも公判は一回のみにて終る場合は少く、数回、十数回に亙つて継続され、何通もの公判調書がある場合が普通である。
本件の場合に於ても公判は第一回乃至第八回に及び八通の公判調書があり、証人鑑定人の取調べられたものはないが、被告人両名の外二名の被告人に対する事件も併合審理されていることは記録について明かである。
このような場合に於て唯「差戻し前の第一審の公判調書」というような漠然たる表示では如何なる公判調書の如何なる点を証拠としたのか全然諒解することが出来ない。即ちどの公判調書の何人の供述又は何人の鑑定の結果と特定し得る方法にて表示しなければ証拠の標目を示したとは称し得ないのではあるまいか。若し原審の如き漠然たる表示方法で足るものとすれば「一件記録」とか「証人の供述」(勿論数人の証人が尋問されている場合)というような表示方法でも可なることとなり、かくては如何なる証拠を証拠としたのかを知り得るように「証拠の標目」を示すべき趣旨を没却するに至るものと認めざるを得ないから特定した証拠を表示したものとは解せられない。
従つて原審は此の点に於て理由不備の違法がある。